小説「ベジソルジャー」1

【目次】

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ここは東の海に浮かぶ島国「ジャン」。古くから「農の国」として世界各地の書物にも登場する歴史ある国だ。穏やかな気候のため、1年を通して多種多様の野菜や果物などを収穫することができる。そんなジャンでは、今も国民の大多数が農に従事している。しかも、その国民性は非常に勤勉で、生産される野菜や果物の品質は年々向上していた。

農の発展ともに、ジャンが国を脈々と紡げたのは、神秘的ともいえる自然の力とその国民性だけが理由ではない。国全体が海に囲まれているため、近代に至るまで他国からの介入を受けなかったことも大きかった。

しかし、技術が進歩し、船や飛行機といった交通手段が開発されるようになったことで、ジャン自身が好むと好まざるとにかかわらず「世界」という舞台に飛び込まざるを得ない状況になった。

真っ先にジャンに目を付けたのが、西の国「ロマンチア」だ。ロマンチアは、ジャンで作られる美味しい農作物を自国で流通させようと画策したのだった。

ロマンチアは圧倒的な国力を背景にジャンと交渉を開始。ただ、それは一方的な脅しに近いものだった。島国で他国からの脅威に備える必要のなかったジャンに軍事力と呼べるものは無く、その弱点にロマンチアは付け込んだ。

「ジャンの農作物をロマンチアに無償で提供しろ。そうすれば、ジャンの安全はロマンチアが守ってやる」

これがロマンチアからの要求だった。もし、この要求に背けば――。この先についてロマンチアが言及することはなかったが、それは自明のことだった。

この条約締結後、ジャンで作られる農作物のうち、およそ3割の量にあたる輸出分すべてをロマンチアが無償で独占することになった。農作物を納めるかたちでロマンチアに守られ、ジャンは平和を維持することができている。その農作物はロマンチア国民に人気が高く、両国の間には長く良好な関係が続いていた。

そんなジャンの西部に「エノル」という村がある。坊主頭のアカは、畑仕事が一段落すると、首にかけていたタオルで顔から頭にかけて汗を一気にぬぐった。ようやく暖かくなり、種をまくこの時期がアカは大好きだった。5か月後の収穫を思い描くと、胸が躍る。大きな身体をしているため、一見、豪快に見られるアカだが、心根はやさしい。ひと粒ひと粒、腰を曲げて丁寧に種をまく様は、大男らしからぬ仕事ぶりだった。

畦道を走る一台の白いトラックが停車した。運転席の窓が開く。

「よっ!どんな調子?」

幼馴染のシロだった。女性ながら性格は男のようにサッパリとしていて、髪は茶色いベリーショート。ドングリのような丸く見開いた目が気の強さを宣言している。アカにとって、ズバズバとモノを言うわかりやすいシロは、付き合いやすい人間のひとりだった。

「今、種まきが落ち着いたところだ」

そうアカが答えると、シロは親指で助手席を指差した。

「気分転換に軽くぶらぶらしない?」

「しかたないな」

アカが身体を折りたたむようにして助手席に乗り込んだのを確認すると、シロは勢いよくアクセルを踏んだ。アカの身体も座席のシートに押し付けられるほどの圧力だ。胃が押されるようだが、そんなシロの運転にも幾分かは慣れていた。

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